今回はファンドマネージャーとして多くの企業訪問をする中で、最高経営責任者(CEO)自らがIRを積極的に行う会社について、その意味を考えてみたいと思います。
先日、あるIT企業を訪問しました。この企業はIR活動を経営における最重要活動の1つと位置づけ、機関投資家とのIRミーティングは「必ずCEOか最高財務責任者(CFO)が行う」と宣言している企業です。私も既に複数回訪問しておりますが、全てCEOかCFOが対応してくれます。企業のIR活動は、資本市場の重要性が認識されるにつれて年々改善していますが、機関投資家との全ミーティングをCEO/CFOが直接行うと宣言している会社は非常に珍しいです。
企業が機関投資家とIRミーティングをする形式は様々ですが、多くの場合はIR担当部署の社員の方々が行うか、その際に役員が1名同席する形式になります。私がよく調査をする中小型株企業であれば半数程度はIR担当役員の方が応対してくれます。もちろん、これらIRを担当している役員・社員の方々は自社の事を非常によく把握していらっしゃいます。しかし、私が一番すごいと感じるのはCEOが一人でIRミーティングの対応をする場合です。会社の業績数字はほぼ全て把握し、経営の方向性や、なぜ経営の意思決定をしたかの背景・考えまで話すことができるというのは並大抵のことではないと感じます。
冒頭のIT企業とのミーティングの最後に、CEO/CFOが直接IR活動を行う理由を聞いてみました。CEOの答えは2つあり、一つは、自ら作成した経営目標に対してコミットメントしていることの表明と、自身へ目標達成のプレッシャーを与えることであり、二つ目は、投資家から受ける様々な質問を通じてCEO自らが気付いていない経営に関するリスクを知るきっかけになるからだと答えていました。このCEOは毎年の経営計画を達成することが最低限の合格ラインと考えており、もし計画を達成できなかった場合でも、なぜ達成できなかったのかを自分で株主に説明したいとのことでした。
私は投資家の視点からもCEO自らがIR活動を行うことに意味があると考えます。今の株式市場の傾向として、株主は短期的利益の追求を経営者に求めることが多くなっていると感じます。つまり、経営者が考える事業の成果が出るまでの時間軸と、投資家が考える時間の格差が広がっていると感じるのです。短期的な利益を求める投資家に対し、経営者自らが企業の将来像を示していく、そしてその経営者の考えに賛同した投資家が実際に株主になっていく、これこそが両者にとってプラスであると思うのです。
最後に蛇足として書き添えますが、経営者が自社の株価を意識しすぎるばかりに、本業の経営よりもIR活動に多くの時間を割いてしまうようでは望ましくありません。
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