前回は、最近の株価回復をマクロ・イベントに沿って考えてみました。今回は、同じ視線で今後どうなるのかシナリオを考えてみたいと思います。
まず、一つ目は、(振り返ってみれば、やはり)あの10月や3月の安値が底で、今、株価は新しい回復・成長サイクルに入っているという考え方です。これには、おそらくひとつの大きな条件が必要となると筆者は考えます。それは、経済を引っ張るファクター、株式市場で云えば市場の広域に数年単位の長期に影響しうるテーマです。前回お話しした財政支出の議論は、政府支出がGDPを下支して良しというわけではありません。財投によってGDPが増えた分(⊿GDP)の一部が、消費に回り(⊿消費を引き起こし)、その分またGDPが増え、その一部が投資(⊿投資)やさらなる消費(⊿⊿消費)を引き起こし、それがまたまたGDPを増やし、、、というスパイラル形成がゴールなわけです(これをケインズ経済学の乗数効果といいます)。また、別の経済学視点では、「経済の規模は、通過(通貨でなく)貨幣量で表せる」というものがあります(これは、社会の教科書にも出てくるデビッド・リカード(David Ricardo)の貨幣数量説に起因する新古典派マネタリストの考え方です。)。この考え方では、前回お話しした中央銀行の金融緩和の話に絡み、いくらお金の供給量(マネー・サプライ)を増やしても、その流通速度/回転数が増えなければ、経済は改善しません。これらGDPの成長スパイラル牽引役やお金の流通速度を上げるドライバーの役目を果たすのが、“ファクター”であります。今回の不況に際し、米オバマ大統領が「グリーン・ニュー・ディール」などの策を掲げておりますが、いまひとつ活性化している雰囲気は感じられません。ただ、今後、活性化するかもしれませんし、別の大きな“ファクター/テーマ”が出現するかも知れません。あと半年~9ヶ月以内くらいで、このようなものが出てくれば、経済回復は波に乗り、株価も上昇軌道のハード確保が出来るでしょう。(PS: ひょっとしたら、筆者が個人的に気が付いていないだけで、読者の皆さんのほうが何かお気付きかもしれません。)
二つ目は、一つ目とまったく逆で、現在までの株価回復は、単なるリバウンドで今後株価は良くても低迷、悪くすると下落していくというシナリオです。つまりは、“ファクター/テーマ”が見つからず、ただ時間だけが過ぎていった場合ということです。財政支出というは、当然、財政負担・赤字を強いります。財政赤字に対する株式市場の反応は一般的にその状況によって大きく分かれます。それが、景気浮揚のために一時的に使われる場合はポジティブに受け止められ、構造的になる場合はネガティブとなります。今回、これだけの財政出動をやって国の借金を増やしましたが、これを株式市場はとりあえずポジティブと受け止めたわけです。ただ上記のスパイラル展開が進展しなければ、効果は一時的で国の借金が増えただけでなく返す目途までつかなくなりかねなくなり、株式市場は、反転、ネガティブな反応を起こすでしょう。また、上記の貨幣数量説的考え方にたてば、中央銀行の金融緩和策も、“ドライバー”がなければ、奇異な意味での“金余り”状況を作りだします。つまりは、増加した通貨供給量が財サービスの数量増をもたらさず、意味がないという意味です。さらには、(変なふうに引火してしまうと、)インフレが起こり、不況下であればスタグフレーションになってしまう、こういうことをまことしやかに云う、特に債券系のファンド・マネージャーもいます。前回の金利の上昇だの商品市況の上昇だのというのは、このような論理背景があるのだと思います。ただ、実際は、(前回も言及したとおり、)景気の活況を通過することなくインフレに陥ることはまずないと筆者は思います。それでも、リスクがゼロではなく、ホントに第一次世界大戦後のドイツや70年代の米国のような状況になると目もあてられないことになります。そうなると、景気を無視してでも徹底的に金融収縮を図るしかほとんど手はなくなります。さらに、、、。何時だったか、今年に入ってからですが、米国CBSがレポートしてました、「サブプライム・バブルが崩壊したきっかけは、サブプライムローン利用者の条件改定件数が2008年に集中し債務不履行者が大量発生したためだが、サブプライムほど劣悪ではないものの、Alt-Aや変動利付き型ローンもすでに焦げ付きが増えてきており、これらの条件改定件数がサブプライム件数と同等程度の規模で2010年に出てくる」と。テレビ・マスコミが云うことなので真偽の程度は斟酌する必要があるでしょうが、今年2009年は良い意味での端境期ということでしょうか。以上のようなトラブルが発生すると、株式市場は底抜けしていく可能性も出てきます。
三つ目のシナリオは、まったく別の考え方で、経済成長や株式市場が、ある意味、パラダイム・シフトを起こすとうシナリオです。ITバブルがあり、金融バブルがあり、そして”a chain of parties is over!”というわけです。したがって、10月だの3月だのの底値はホントの意味で底値であり、新しい景気・株式市場サイクルが始まってはいるものの、もはや日本や米国といった市場は、経済でも株でも極めて低い成長トレンド・ラインしか描けず、そこから上下へ乖離する景気・株式市場サイクルが描かれるというものです。あまり考えたくないのですが、日本はすでにこのパターンにずいぶん前からなっているのかも知れません。日経平均20年チャートを参照してみて下さい。ピークの山がサイクルの度に切り下がってきているのが分かります。”growth recession(成長しながら不景気)”なんて言葉は日本のためにあるのかもしれません。このシナリオの場合、サイクル期間を考えると来年中盤か来年いっぱいぐらいまで株式相場の上昇基調は続く可能性があります。ただし、日本経済はアメリカ経済に支えられてきたことが大でありますから、そのアメリカもparty’s overとなってしまうわけで、そうなると、景気の山谷の山はいままでよりかなり低くなるはずです。そうであれば、株価も前回ピークから大きく切り下がるはずです。前回のピークは日経平均で¥18,000ぐらいでしたが、今回は¥13, 000なのか¥12,000なのか、良く分かりませんがその辺りになるのかもしれません。いずれにしても上昇基調のタイム・フレームと株価の上昇後一定期間もみあうホバーリング価格レンジのマトリックス内で投資活動を行うしかないでしょう。
次回は、以上の議論を踏まえたまとめ、その他に入っていきたいと思います。